こんにちは、バーチャルオフィス博士じゃ
近年、自宅にいながらネット上で副業や商売をするには必ず直面する問題があります。特定商取引法に基づく表記で自分の個人情報を公開しなければならなくなる問題です。ネットショップに関して、特定商取引法に基づく表記で自分の個人情報をいかにして守るか、バーチャルオフィスを利用することが違法にならないかも含めて押さえておきたいポイントについて解説したいと思います。
個人情報である自分の名前、住所、電話番号を非公開にして特定商取引法に基づく表記を突破する方法
結論からいうと、原則、できません。
特定商取引法に基づく表記においては、販売業者の氏名を表示することが義務付けられています(特定商取引に関する法律施行規則第23条第1項第1号)。個人事業者の場合は自分の氏名、法人の場合は代表者または業務責任者の氏名を表示する必要があります。
事業を行う上で、責任の所在を明らかにすることは不可欠です。このため法人であれ個人であれ氏名又は名称を表示することが必要です。加えて事業者が法人の場合で、ウェブサイトや電子メール等を利用して広告をする場合には、代表者名又は通信販売に関する業務の責任者の氏名を表示することが必要です。
特定商取引法ガイド 通信販売広告Q&A
自分の名前、住所、電話番号を非公開にしても大丈夫な方法
自分のネットショップを始めるに際して、自分のホームページに自分の名前、住所、電話番号を公開すると、犯罪に巻き込まれる危険性があります。その点、消費者保護を考慮しつつ消費者庁から以下の見解が公表されています。
ただし、消費者からの請求によって、広告表示事項を記載した書面又は電子メール等を「遅滞なく」提供することを広告に表示し、かつ、実際に請求があった場合に「遅滞なく」提供できるような措置を講じている場合には、事業者の氏名(名称)の表示を省略することも可能です。なお、ここでいう「遅滞なく」提供されることとは、販売方法等の取引実態に即して、申込みの意思決定に先立って十分な時間的余裕をもって提供されることをいいます。
特定商取引法ガイド 通信販売広告Q&A
引用文では、具体的な方法は明示されていませんが、自分の名前、住所、電話番号を非公開にするためには、取引前に次のような措置をわかりやすい場所に講じていることが望ましいと思われます。
- 消費者からの請求があった場合には、広告表示事項(氏名、住所、電話番号)を記載したPDFファイルをダウンロードできるようにする。
- 消費者からの請求があった場合には、電子メールで、広告表示事項(氏名、住所、電話番号)を記載した書面を送付できるようにする。
こうすることで、公開されているネット上に自分の個人情報を無防備に晒すことを回避することができます。また、検索サイトでエゴサーチをしてもヒットすることを防ぐことができます。しかし、現実問題として、他のネットショップが自分の個人情報を明記している中で、自分のネットショップだけ非公開にするのは、怪しい印象を与えてしまい、購買行動につながるかは未知数です。
ECモールで自分の名前、住所、電話番号を実質非公開にする方法
周りのネットショップがちゃんと名前、住所、電話番号を公開している中で、個人情報を非公開にして商売をする人は、信用の面で厳しい状況になると考えられます。だったら発想の転換です。みんなで非公開にすれば、怖くありません。有名なECモールが非公開設定サービスを提供しているので、それを利用しましょう。ECモールであれば、販売者は正直言えば有象無象であっても、商品や評価に関して問題なければ購入してくれるからです。
実際、名前、住所、電話番号をすべて非公開にできるECモールとして有名なのは、メルカリShopsです。メルカリShopsの商品を売っている事業者をみると、名前、住所、電話番号をすべて非公開にしている店があることに気づきます。そして、すぐ下に、フォームから請求があれば通知する旨も記載されています。
請求があればメールで通知されるため、WEBサイトを徘徊するボットや検索エンジンによる個人情報の収集を防ぐことができます。また、相手の個人情報をわざわざ調べる人だけしかわからないため、完全非公開とは言えませんが、実質非公開に近い形で商売が可能になります。
しかし、こういった個人情報を非公開設定にできるモールは、少数派です。アマゾン、楽天市場、ヤフーショッピングは非公開設定にするサービスを提供していません。アマゾン、楽天市場、ヤフーショッピングだけで日本のECモールの過半数の流通量を占めているといっても過言ではありません。その点、儲けようと思ったら、これらのECモールを無視してネットショップを展開するのは、現実的ではありません。
バーチャルオフィスで自分の住所を実質非公開にする方法
アマゾン、楽天市場、ヤフーショッピング、その他非公開設定のないモールに出店し、なおかつ自分の住所を、実質的に非公開にするためにはどうすればよいでしょうか。そこで登場するのがバーチャルオフィスです。なお、バーチャルオフィスの広告で、特定商取引法に基づく表記に使える、自宅住所を公開しなくてもよい、という文言をよく目にしますが、これは本当なのでしょうか。
この点、バーチャルオフィスの住所を使って違法にならないためには、かなり注意が必要です。では、どのようにすればよいのでしょうか。消費者庁では、個人事業主がバーチャルオフィスを使うことに関して、以下の見解を公表しています。
(バーチャルオフィスに関係している箇所を一部抜粋)
特定商取引法に基づき広告に表示することとされている住所及び電話番号は、事業を行う上で、トラブルが生じた場合や消費者から問合せがある場合の対応等に備えるためのものです。そのため、「住所」については現に活動している住所、「電話番号」については確実に連絡が取れる番号を表示する必要がありますが、以下のような措置が講じられ、住所及び電話番号について上記の要件が満たされる場合においては、通信販売の取引の場を提供するプラットフォーム事業者やバーチャルオフィスの住所及び電話番号を表示することによっても、特定商取引法の要請を満たすものと考えられます。
・ 個人事業者がプラットフォーム事業者又はバーチャルオフィスの住所及び電話番号を表示する場合、当該プラットフォーム事業者又は当該バーチャルオフィスの住所及び電話番号が、当該個人事業者が通信販売に係る取引を行う際の連絡先としての機能を果たすことについて、当該個人事業者と当該プラットフォーム事業者又は当該バーチャルオフィス運営事業者との間で合意がなされていること
・ 個人事業者がプラットフォーム事業者又はバーチャルオフィスの住所及び電話番号を表示する場合、当該プラットフォーム事業者又は当該バーチャルオフィス運営事業者は、当該個人事業者の現住所及び本人名義の電話番号を把握しており、当該プラットフォーム事業者又は当該バーチャルオフィス運営事業者と当該個人事業者との間で確実に連絡が取れる状態となっていること
ただし、個人事業者、プラットフォーム事業者又はバーチャルオフィス運営事業者のいずれかが不誠実であり、消費者から連絡が取れないなどの事態が発生する場合には、特定商取引法上の表示義務を果たしたことにはなりません。
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バーチャルオフィスが現に活動している住所である場合
つまり、現に活動している住所であることが、まず要件として求められます。バーチャルオフィス業者が以下の措置を講じれば、問題ないことになります。
- バーチャルオフィスから借りる住所を特定商取引法に基づく表記に使うことに合意していること
- バーチャルオフィスが郵便物の到着や身分証明書の確認をし確実に連絡がとれること
バーチャルオフィスに契約した時点で、通常、特定商取引法に基づく表記に使うことも合意されています。また、犯罪収益移転防止法が施行されてからは、バーチャルオフィスでは身分証明書の確認もしっかりと行われており、確実に連絡が取れる状態になっています。そのため、問題ありません。
もしバーチャルオフィスの住所が現に事業が行われている場所であるなら、特定商取引法に基づく表記としてバーチャルオフィスの住所を合法的に利用することができます。
バーチャルオフィスが現に活動している住所でない場合
一方、もしバーチャルオフィスの住所が現に活動している住所でなければどうなるのでしょうか。その場合、バーチャルオフィスの住所を特定商取引法に基づく表記の住所として使うためには、以下の内容を付記する必要があります。
- バーチャルオフィスの住所であることを表示する
- 請求されたら遅滞なく通知することを表示する
これは、「NAWABARI」というバーチャルオフィス業者が、法令適用事前確認手続という制度を使って、2014年7月4日に法令適用事前確認手続照会書を提出、2014年7月31日に法令適用事前確認手続回答通知書が通知され、消費者庁で2014年11月01日に公表した条件を一部抜粋したものです。
記載されている氏名、住所等が販売業者等のものではない旨並びに、消費者からの請求により販売業者等の氏名又は名称、販売業者等が現に活動している住所及び販売業者等の電話番号を記載した署名を遅滞なく交付し、又はこれらを記録した電磁的記録を遅滞なく提供する旨を表示する必要がある
法令適用事前確認手続回答通知書
この内容を根拠として、バーチャルオフィスの住所が現に活動している住所でない場合には、バーチャルオフィスの住所を特定商取引法に基づく表記の住所として利用する場合、住所のすぐ下などわかりやすい場所に付記すれば、バーチャルオフィスの住所は違法にならないということになったようです。
バーチャルオフィスが現に活動している住所であるかどうか、その判断基準は?
バーチャルオフィスの住所が現に活動している住所ならば、消費者庁のQ&Aによると、バーチャルオフィスの住所に別途付記するようなことは特に求められてはいなく、一方バーチャルオフィスの住所が現に活動していない住所ならば、消費者庁の回答書によると、バーチャルオフィスの住所に別途付記する必要があります。
ネット上でネットショップの住所(営業上の活動の拠点)として利用し郵便物を届いているのだからバーチャルオフィスの住所は現に活動している住所ともいえるし、一方、バーチャルオフィスは、バーチャルなのだから、現に活動しているのはあくまで自宅住所であって、バーチャルオフィスの住所は現に活動していないともいえます。
この点については、消費者庁のサイトをくまなく探しましたが、誰でもはっきりわかる確かな情報源は見つけることができませんでした。諸々の経緯も含めて消費者庁に電話で問い合わせましたが、明確な回答は得られませんでした。この件に関して、少なくとも現時点では、何が現に活動している住所なのかそうでないのかは不透明です。
結局のところ、バーチャルオフィスの住所が現に活動している住所であるかどうかは、バーチャルオフィスの使用が社会問題化した時や、時代の要請で適時、消費者庁が判断することになるのではないでしょうか。
なお、バーチャルオフィスの住所を特定商取引法に基づく表記の住所として利用する場合は、住所のすぐ下などわかりやすい場所に、バーチャルオフィスであること、請求されたら遅滞なく通知することを明示する方法が、バーチャルオフィス業界の中で一般的です。
また、消費者庁からの回答通知書もあり現に違法とされていないことから、安全に商売をしたいなら、バーチャルオフィスの住所だけを書くのではなく、この方法を採用した方が、特定商取引法で違法にならない安全な対応と言えます。
バーチャルオフィスで電話番号を実質非公開にする必要はない
バーチャルオフィスに電話番号を借りることで、実質的に電話番号を非公開にすることは可能ですが、わざわざお金をかけてまで借りる必要はありません。
なぜなら、個人事業主・中小零細企業が運営するネットショップでは、特定商取引法に基づく表記を見てわざわざ電話をかけてくる人は、年に1回あるかどうかぐらいです。そのため、バーチャルオフィスから借りた電話番号に料金を支払うのは、どう考えても無駄な出費に思えます。
また、電話番号については、ネットショップ専用の電話番号を新規に用意することは、それほど難しいことではありません。そのため、050番号を取得してアプリで着信できるようにするか、電話番号付きの格安SIMを契約してデュアルSIMに対応しているスマホに挿せば、実質的にプライベートの電話番号を非公開にすることができます。
ネット上にて電話番号を表示したとしても、特に困ることもないので、素直にネットショップ専用の電話番号を用意すればよいでしょう。自分の電話番号をバーチャルオフィスで非公開にすることは、あまり意味がありません。
おまけの論点
特定商取引法に基づく表記は、私書箱の住所でもいいのか
結論からいうとダメです。
正直なところ、バーチャルオフィスと私書箱の違いは、実態として違いはほとんどありません。どちらも住所を貸し、郵便を転送することが基本サービスです。しかし、消費者庁の見解では、私書箱は完全にアウトです。
特定商取引法での「住所」とは、会社の場合には本店の所在地等、営業上の活動の拠点となる場所を指すものです。私書箱を表示しても、このような場所を表示したことにはならないので、「住所」の表示をしたことにはなりません。
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電話は24時間対応でなければならないのか
24時間対応の必要はありません。ホームページで公表している営業時間内であれば問題ありません。営業時間を設定していない場合は、一般的な平日10時から17時までに対応すれば十分でしょう。
ただ、ネットショップの場合は、自前でホームページを作るより、アマゾンなどのモールに出店した方が収益性が高いです。そのため、現実の実務の面では、特定商取引法のためというより、より厳しい制約が課せられているプラットフォーマーが決めた返信時間内に対応が迫られるというのが通常になるかと思います。
ちなみにアマゾンの場合は、お客様から問い合わせがあったら、その返信時間によってスコアポイントが落ちるといった対応が取られます。放置した場合は、最悪アカウント停止になる場合があります。
一般常識として夜間等営業を行っていない時間帯については、留守番電話等を利用することは構いません。
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ずっと留守電にしてはいけないのか
電話番号を留守電専用にしたら明らかにアウトです。出られるときは出て、出られないときは、すぐに折り返すという対応をすれば問題ありません。また、個人事業主・中小零細企業では、一般的に先客や仕事中で手が離せないときに物理的に電話に出ることができないことは当たり前にあります。そのため、留守電に切り替わっただけで特定商取引法違反になることはありません。
まとめ
腹をくくれば怖くないぞい
ネットショップに関して特定商取引法に基づく表記に関しては、様々な確認事項がありますが、今回は特に、自分の個人情報をどう守るのかということを想定した論点を中心に解説してみました。
様々なリスクと商売の収益性を比較検討した上で、生活の足しになる程度の収益でよく、自分の個人情報がネット上に検索可能な状態にあると不安な人や、プライバシーを重視する人などは、ECモールの非公開サービスを利用するのがよいでしょう。
本業といえるほどの収益を目指す人は、収益性が高いECモールに出店して、名前の公開は覚悟し、住所はバーチャルオフィスを使って実質非公開に、電話番号は新規に用意するのが、一番よい選択だと思います。